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(No.6029)川瀬七緒「紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」/マイケル・ロボサム「生か、死か」/セバスチャン・フィツェッ「アイ・コレクター」/前川裕「イアリー 見えない顔」

2018.06.17 (Sun)

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(銀梅花=ギンバイカ:フェンス代わり。見頃でシベが美しい:熱海)

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(銀梅花=つぼみがまん丸でかわいいアクセントに:熱海)


(ユリ:群生していると綺麗ですね:熱海)

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パソコンの入れ替えや、熱海行き、日程が色々重なっても、読書量は落ちていませんでした。
読みたい本さえあれば、時間はなんとでもなるものですね。歌のレッスン教室の発表会が7月で、2曲暗譜が必要です。ボイストレーニングの先生の発表会にも出ることになりました。9月。独唱で2曲(イタリア歌曲と、日本語)デュエットで1曲(日本語)。こちらはほぼ暗譜できてるので、細かな表現の練習になるでしょうか。頭の中をイタリア語が駆け回っています。苦笑。
今回は4作です。
川瀬七緒「紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」
マイケル・ロボサム「生か、死か」
セバスチャン・フィツェッ「アイ・コレクター」
前川裕「イアリー 見えない顔」


「紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」都内の古民家で、大量の血痕と3本の左手の小指が見つかった。住人の遠山夫婦とその客人のものと思われたが、発見から1ヵ月経っても死体は見つかっていない。岩楯警部補は相棒の鰐川と近所の聞き込みを始めるが、いっこうに捜査が進展しない。法医昆虫学者の赤堀は、法医昆虫学と心理学分野、技術開発部の三つが統合された新組織「捜査分析支援センター」に配属されていた。事件現場に立ち入れなくなったものの、同僚のプロファイラーと組んで難事件に新たな形で挑戦をする。

赤堀は、わずかな違和感を持った指の一点を徹底して追求し、家の周りの虫の生態系が壊れている原因解明をする様子はすごいです。岩楯に自分の過去を話したのは、これからの布石か気になります。アルコール依存症が、ここまで家族を巻き込むのはすさまじかったです。毎回、期待を裏切らない赤堀と岩楯、鰐川を味わえます。これからプロファイラーが加わわるのは、わずかにしてほしいです。

「生か、死か」オーディは、死者4名を出した現金輸送車襲撃事件の共犯として10年の刑に服していた。奪われた700万ドルの行方を知ると考えられていたため、獄中生活は常に命を狙われていた。だが、囚人たちや看守にどれほど脅されても金の在処を口にしなかった。そして刑期満了の前夜、オーディは脱獄する。翌日には自由と金が手に入ったはずなのに、いったいなぜか。

オーディは逃げながら、現金輸送車襲撃事件の真犯人を見つけ出そうとします。獄中で唯一の友人モスが釈放され、オーディを探し協力しようとします。結婚を約束したベリータ。激しい悔恨で悪夢にうなされ、何としても真犯人にたどり着こうとする執念の強さが生きる力にったのでしょう。それにしても、獄中で生き延びることの大変さ。司法取引。オーディの心理描写も、展開もうまいです。面白い作家との出会いです。

「アイ・コレクター」ベルリンを震撼させる連続殺人事件。子どもを誘拐して母親を殺す。制限時間内に父親が探せなければその子どもを殺す、というものだ。殺された子どもが左目を抉り取られていたことから、犯人は「目の収集人」と呼ばれた。元ベルリン警察官で、今は新聞記者のツォルバッハは事件を追うが、犯人の罠にはまり容疑者にされてしまう。特異な能力を持つ盲目の女性の協力を得て調査を進めていく。やがて想像を絶する真相が明らかに。

405ページ目から始まり、1ページ目に向かって進む構成の意味の重さに、読了後しばし茫然としました。閉じ込められた場所で、必死に生きようとする子どもたちの描写が秀逸です。やがて見えてくる犯人像に戦慄させられます。うまい作家です。一気に読ませられます。他作品も読んでみたいです。

「イアリー 見えない顔」私立大学教授の私が、病死した妻の葬儀を終えて帰宅。夜の10時過ぎ「奥様、ご在宅ですか?」。インターホンのスクリーンに映る女性の姿に見覚えはなく、私が外に出たときには女の姿は消えていた。あの女は誰だったのか。そんな思いに囚われながら、私は大学の総長選挙に深く関わっていく。やがて近所のゴミ捨て場で身元不明の遺体が発見され、私の身の回りで起こる不審な出来事と、混沌とした選挙戦のつながりまで見えてくる。

かなり苦労して書いたなと思います。宗教団体、断酒会、大学の総長選挙。見えない身近の闇の不気味さはありますが、社会的通念に不自然さがあるのは作者にはやむを得ないところかも知れません。心理描写に、読者を引き寄せる力がありません。隔靴掻痒というか、壁を感じます。

「Book」読書日記は作家ごとの感想です。よかったらどうぞ〜♪
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(No.6023)ドン・ウィンズロウ「ザ・カルテル」/ケルスティン・ギア「青玉(サファイア)は光り輝く」「比類なき翠玉(エメラルド)」

2018.05.31 (Thu)


(コモレビソウ:2mmの小さな花のたわむれ:ベランダ)

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(コモレビソウ:結実すると花が変化します:ベランダ)

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(ムスク・マロー:アオイ科の、かわいい花:ベランダ)

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(ホウセンカ:子どもの頃を思い出します:ベランダ)

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お花が駆け足で咲いていきます。どの花も時期が早くなっているようです。
来週には関東も梅雨入りしそうです。真夏までのワンクッションは助かります。

読書熱が戻り、今回は3作です。
ドン・ウィンズロウ「ザ・カルテル 上・下」
ケルスティン・ギア「青玉(サファイア)は光り輝く」
         「比類なき翠玉(エメラルド)」


「ザ・カルテル 上・下」 麻薬王アダン・バレーラが脱獄した。30年にわたる血と暴力の果てにもぎとった静寂も束の間、身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金が賭けられた。玉座に返り咲いた麻薬王は、血なまぐさい抗争を続けるカルテルをまとめあげるべく動きはじめる。一方、アメリカもバレーラを徹底撲滅すべく精鋭部隊を送り込み、壮絶な闘いの幕が上がる。

壮大なカルテルの小さな悪から、南米を統べる大組織の巨悪まで、書き切る作者の力量は凄まじいものがあります。残虐なシーンをこれでもかと展開します。ケラーの行動は復讐という私怨に突き動かされます。金銭や地位も、そこが根本的な部分なのか。疑問が残ります。どこまで書くのか、という思いに引きずられて読み終わりました。残ったのはもう謀略や暴力物は読みたくない、うんざりという疲労感でした。しばらくは心安らぐ作品を読みたいです。

「青玉(サファイア)は光り輝く」タイムトラベル能力の調整のために行う「時間消化」中に若き日の祖父と出会ったグウェンドリン。2人はギデオンや〈監視団〉メンバーには内緒で、ルーシーとポールがクロノグラフを盗んで逃亡した謎を解明しようと画策する。クロノグラフが12人のタイムトラベラーの血を読みこんだとき、一体何が起きるのか。

タイムトラベルで出会う、過去の系譜の人たち。おじいちゃんとの会話に心が温まりました。ギデオンへのもどかしいグウェンドリンの恋心に、少々気恥ずかしいですが純粋さがいいですね。思いがけず気丈に危機を切り抜けていく、強さも併せ持っています。テンポがよく、ラノベのように楽しめます。

「比類なき翠玉(エメラルド)」サンジェルマン伯爵から告げられた残酷な真実に、グウェンドリンの恋心は荒れる。そんななか、盗まれたクロノグラフの隠し場所がついに明らかになる。〈監視団〉メンバーやいとこの目をかいくぐり、若き日の祖父の協力のもと伯爵の陰謀に迫るグウェンドリンだったが、相棒・ギデオンとの関係はこじれたまま。〈監視団〉はメンバーの中に潜む裏切り者の正体を暴くため、18世紀の舞踏会に2人を送りこむ計画を進めていた。

サンジェルマン伯爵の計画を阻止しようとする、グウェンドリンとギデオンの行動が思い切りがよく痛快です。人間の欲望が、永遠の命を得ること。その間に何をするのか。重くならずに描いてみせました。いいラストです。

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11:56  |   |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

(No.6022)ドン・ウィンズロウ「ダ・フォース」/ケルスティン・ギア「紅玉(ルビー)は終わりにして始まり」

2018.05.22 (Tue)

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(ガウラ=白蝶草:見頃を迎えて涼しげにきれい:ベランダ)


(白花紫蘭:白くてもシランと呼ばれるのが少しかわいそう:ベランダ)

去年の初夏も暑く、そのあとの冷夏を思い出しました。
春まで寒さが厳しかったので、そのあとの気温のアップダウンに体が付いていくのに精一杯でした。でも酷暑も嫌ですね。

今回は2作です。どうも日本の作家のおもしろい作品に出会いません。残念。
ドン・ウィンズロウ「ダ・フォース 上・下」
ケルスティン・ギア「紅玉(ルビー)は終わりにして始まり」


「ダ・フォース 上・下」麻薬や銃による犯罪を取り締まるマンハッタン・ノース特捜部、通称『ダ・フォース』。ニューヨーク市警3万8千人の中でも最もタフで最も優秀で最も悪辣な警官たちを率いるマローンは市民のヒーローであり、この街を統べる刑事の王だった。だが、ドミニカ人麻薬組織の手入れの際におこなったある行動をきっかけに、マローンの人生は転落の道をたどりはじめる。FBIが汚職警官を極秘裏に捜査するなか、1人の刑事が拳銃自殺を遂げる。仲間内に衝撃と疑心暗鬼が広がる一方、街場ではラテン系、黒人ギャング、マフィア新旧入り乱れる権力抗争が激化していた。さらに連邦職員の検察とFBI捜査官に追い詰められ、マローンは自分の組織の裏切り者にされる。

清濁併せ持ち、街を治めていたマローンが窮地に陥るのは初めての展開です。絡み合った人と人の「信頼」を裏切ることになった苦渋。ハードな事件と、ヤワなマローンの罪の意識。そういう一面が描かれ、胸に突き刺さります。重くハードな仕事で挽回しようと、必死にもがく姿が印象的です。力量のすごさを感じました。

「紅玉(ルビー)は終わりにして始まり」グウェンが「めまい」に襲われたのは高校のカフェテリア。それがすべての始まりだった。そもそも、タイムトラベラーとして準備をしていたのは、いとこのシャーロットだったのだ。ところが実際に過去に飛んだのは、何の準備もしていないグウェン。相棒のギデオンは気絶しそうなほどステキだけど、自信過剰で嫌なやつだが守ってもらうしかない。グウェンを守ろうと母は必死になる。

明るい性格のグウェンが中心なので、軽快なストーリー展開がテンポよく読み進められます。緻密な歴史的背景の描写も、楽しめます。タイムトラベルした時代は、馬車や馬が走り、男性がカツラを着け、女性がコルセットをして広げたスカートとロールヘアという中世。繰り広げられる人間模様も。どの時代かで実行された陰謀。3部作ということなので、あと2作読みたいと思います。

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(No.6021)レイフ・GW・ペーション「許されざる者」

2018.05.06 (Sun)

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(ハタケニラ:街路樹の足元に咲く:市内)

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今回は1作です。なんとなく、読書熱が引いてしまいました。落ち着いたペースで読んでいきます。
コンサートや新しい友人との出会いなどで、満足しているのかも知れません。7月の歌の発表会まで、レッスン、ボイストレも努力を重ねていきたいです。

レイフ・GW・ペーション「許されざる者」国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。

不自由な右腕のリハビリと、感情のコントロール、妻からの健康管理。ヨハンソンも読んでいる側ももどかしいです。そんな状況の中、時効になっている事件の犯人をついに見つけ出し、当時の証拠を立証しようとします。法的に裁くことと、犯人への復讐心を抑え、どう裁くのが犯人に罪の重さを知らしめるのか。元の同僚や友人、執事など、個性的な人物たちと見つけた結論がみごとです。しかしその前夜、楽しい友人たちとの釣りやお酒がヨハンソンを一撃します。結末は納得のいくものでした。

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(No.6016)ドン・ウィンズロウ「報復」/トーヴェ・アルステルダール「海岸の女たち」/宮内悠介「カブールの園」

2018.04.15 (Sun)


(メラスフェルラ:カスミソウのように揺れる不思議な魅力。ひと目惚れ:ベランダ)

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(八重桜"ウコン=鬱金":薄黄から赤に移ろうあでやかさ。早くも散って:市内)

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春の花たちが、めくるめく美しさを見せて、駆け足で通り過ぎていきます。
日々もどこか大急ぎな気がします。20代は2倍の速さ、30代は3倍、40・・・時間感覚が感じられるそうです。確かにそう思います。

今回は3作です。
ドン・ウィンズロウ「報復」
トーヴェ・アルステルダール「海岸の女たち」
宮内悠介「カブールの園」


「報復」空港の保安監督官として働くデイヴは、飛行機事故で最愛の妻子を失った。絶望にうちのめされながらも、事故として扱われる奇妙な動きから、テロではないかと疑念を抱いたデイヴは、恐ろしい事実と政府の隠蔽工作を知ってしまう。怒りに駆られ、元兵士の先鋭たちと狡猾なテロリストへの報復を決意する。すべてを失った男の凄絶な闘いが始まる。

作者のいつもの心理描写は、デイヴの家族への思いと、仲間たちそれぞれの短い懐古に凝縮されます。 戦闘シーンと心理を両立させています。豊かな銃器や軍事知識が精緻で、アクション映画で見たくなります。仲間の一人の裏切りを断罪するシーンも、負傷者を連れ帰ろうとする心情もうまく描かれていると思います。戦闘シーンが長いのはやむを得ないところでしょう。新作が楽しみです。

「海岸の女たち」パリに取材に行ったフリージャーナリストの夫・パトリック。連絡が途絶えて10日あまり、パトリックからのテレーセ宛の手紙には、謎めいた写真が保存されたディスクが入っていた。妊娠を告げたくて、テレーセはニューヨークからパリへ飛んだ。その頃パリでは、不法移民問題が起き、大規模火災で多数が亡くなっていた。

わずかな手がかりからパトリックの行動範囲と人脈をつかみ、大胆な行動力を発揮するテレーセは、魅力的です。ただ、社会情勢や大きな問題の前には手も足も出ません。かろうじて夫と自分の誇りを守る、凛とした姿勢は立派です。時代的に少し前の北欧で、横たわる人種差別や貧困が少し重いです。

「カブールの園」アメリカに住む日本人の物語「カブールの園」「半地下」2篇。英語と日本語の狭間で生きる日系三世の玲(レイ)。休暇でかつての日本人収容所を訪れる。アメリカンドリームを掴める国アメリカ。だがそこに住む日本人は果たして夢を追えたのだろうか。差別を受け、虐げられ、一方で日本人の意識が残り、日本人であることから逃げられない現実。

二つの国の狭間で、精神的に追い詰められてしまいます。バランスを取ることの難しさや過酷さを、淡々とした描写が一層伝えてきます。人種差別が根底にある国で、生きることの切ない哀しみが残りました。

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(No.6013)ピーター・スワンソン「そしてミランダを殺す」/中村文則「去年の冬、きみと別れ」/宮内悠介「ディレイ・エフェクト」

2018.03.28 (Wed)


(シモクレン=紫木蓮:木蓮が青空に映えます:市内)

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(サラサモクレン=更紗木蓮:きれいな濃いピンクはバラのよう:市内)

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(サラサモクレン=更紗木蓮:淡いピンクは微笑み:市内)

青空に花たちが映え、春を謳歌しています。
故郷に帰省したくなりますね。今年はいろんな都合で行けそうにありません。来年にします。

今回は3作です。ちょっと読書量が落ちました。ゆづくんロス(優勝した後の放心かも)でしょう。
ピーター・スワンソン「そしてミランダを殺す」
中村文則「去年の冬、きみと別れ」
宮内悠介「ディレイ・エフェクト」


「そしてミランダを殺す」空港のバーで離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに出会う。テッドは酔った勢いで、妻のミランダが建築士のブラッドと浮気をしていることを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し、協力を申し出る。ミランダとブラッド2人の周到な殺害計画を立てたが、決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こってしまう。

4人の視点の記述がじつによくできていて、家族や友人との関係も少しづつ明らかになっていきます。誰が誰に嘘をついているのか、あるいはそう信じたがっているのか。人間の思い込みがいかに脆弱なものか。その薄氷の基盤の上で起きる日常的な事柄が、幾度も繰り返しひっくり返ります。最後までおもしろく読ませます。結末は途中でわかってしまうのですが、きっちりと収斂させてしまうのがみごとです。

「去年の冬、きみと別れ」ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告・木原坂雄大に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。雄大の姉・朱里は、弟の撮る写真が怖いという。描く絵も怖いと。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか。それは本当に殺人だったのか。「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は真実は別なところにあった。

中編の短さにすいっと引き込まれてしまいます。言葉や動きの描写の、特有の間が不思議な雰囲気を作っています。本を書くはずの「僕」が流れに飲み込まれていく過程もおもしろいです。映画化されたらしいです。観に行くことはないですが、映像としての作品にも興味が引かれます。

「ディレイ・エフェクト」 いまの東京に重なって、あの戦争が見えてしまう。妻が娘と疎開したいと言うが、わたしは娘に歴史を見せてやりたいとも思っている。夫婦の間で言い争いが始まる。茶の間と重なりあったリビングの、ソファと重なりあった半透明のちゃぶ台に、曾祖父がいた。まだ少女だった祖母もいる。大混乱に陥った昭和20年(1945年)の暮らしが、2020年の日常と重なっているのだ。3月10日の下町空襲が迫っている。少女の母である曾祖母は、幻の吹雪に包まれながらもうすぐ焼け死んでしまうのだ。わたしはオフィスで音声や映像処理の技術開発という仕事をしながら、落ち着かない心持ちでそのときを待っている。・・「ディレイ・エフェクト」
「空蝉」「阿呆神社」3編の短編集です。

75年前の映像が想像できる描写がうまいです。リアリティがあり、さらりと無駄のない文章が緊迫しつつ、はかなさも浮かび上がらせます。ラストはほっとしますが、もっと進んだ時間を読みたい気持ちにさせます。短編にしたのはもったいないです。長編で充分いけるし読みたいと思いました。他2編はスルーで。

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