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(No.5995)春畑行成「僕が殺された未来」/R・D・ウィングフィールド「冬のフロスト」「フロスト気質」/ジョン・ル・カレ「誰よりも狙われた男」

2017.11.17 (Fri)


(イチョウの黄葉:お気に入りの東大の庭)

羽生選手は治療に専念し、P&GのCMイベントで帝王プルシェンコ、松岡修造さん、プロレスの吉田さんからのエールがうれしいニュースでした。子どもの頃から憧れ尊敬して同じリンクに立つプル様からの、熱のこもったたくさんの言葉がゆづくんにはなによりの薬になっていると思います。

すっかり真冬の気温になってしまった関東です。今朝の外気は3度。ダウンジャケットを出しました。少し前に半袖をようやく長袖に入れ替えたというのに。

今回は4作です。なかなか日本のおもしろい作品と出会えなくてもどかしいです。
春畑行成「僕が殺された未来」
R・D・ウィングフィールド「冬のフロスト 上・下」
            「フロスト気質 上・下」
ジョン・ル・カレ「誰よりも狙われた男」


「僕が殺された未来」ミスキャンパスの小田美沙希が誘拐された。一方、彼女に思いを寄せていた高木の前に、六十年後の未来からやってきた少女・ハナが現れた。高木と小田美沙希は誘拐犯に殺され、事件は迷宮入りするという。半信半疑ながら、自分たちが殺されるのを防ぐため、高木は調査を開始するが。未来の捜査資料を駆使して、高木は自らの死亡予定時刻までに犯人を捕らえることができるのか

軽いタッチのラノベです。楽しめます。自分に置き換えて読むと、どう動くか想像するのが楽しいです。少し片思いの恋を美化し過ぎかも知れません。

「冬のフロスト 上・下」寒風が肌を刺す冬、デントン署管内はさながら犯罪見本市と化していた。幼い少女が行方不明になり、売春婦が次々に殺され、ショットガン強盗にフーリガンの一団、「怪盗枕カヴァー」といった宝石店泥棒が好き勝手に暴れる、古い遺骨が発見される始末。冴えないフロスト警部は、上司に経費の使い過ぎと検挙率の低さを罵倒され、無能な部下に手を焼きつつ、人手不足の影響で睡眠不足の捜査を強いられる。

推理や捜査がわずかに逸れて無駄骨になるフロスト警部。タバコの煙でつかのま笑えないジョークを飛ばしつつ、失意に落ちます。執念の粘りで、いくつもの事件を最終的に収斂させてしまうのが、うまいです。長さが気にならずに読ませるうまい作家です。亡くなられたと聞き、もう数作読んでみようかと思います。

「フロスト気質 上・下」ゴミ袋から少年の死体が発見。連続幼児死傷事件。幼児3人殺人事件と母親の失踪。しょぼくれた風体のフロスト警部は、人手不足の影響で睡眠不足。上司に無駄遣いと検挙率の低さを罵倒され、出世第一目標のキャシディ刑事が、臨時の警部代理で派遣される。娘を交通事故でなくしフロストの捜査に恨みを持っている。さらに少年の誘拐事件が発生し、身代金引き渡し場所での犯人逮捕の失態。限られた人員で捜査を強いられる。

推理や捜査が逸れて手がかりを失うフロスト警部。タバコの煙と笑えないジョークといまならセクハラ行為も、愛すべき人物像としてわたしの中に定着。豪雨の中の捜査、自ら川のゴミ拾いまで加わり、執念の粘りで少年を救い出しますす。徒労とひらめき。難事件を最後はぎりぎりのところで解決してしまうのは、強運としか言えないほどですが、笑顔で読み終えてしまいました。

「誰よりも狙われた男」ドイツのハンブルクにやって来た痩せぎすの若者イッサ。体中に傷跡があり密入国していたイッサを救おうと、弁護士のアナベルは銀行経営者ブルーに接触する。だが、イッサは過激派として国際指名手配されていたのだ。練達のスパイ、バッハマンの率いるチームが、イッサに迫る。そして、命懸けでイッサを救おうとするアナベルと、彼女に魅かれるブルーもまた、暗闘に巻きこまれていく。遺産の相続人はお金に欲がないが、請求権宣言をするようアナベルとブルーが働きかけ、イッサの身の安全とイスラム系のたくさんの人を救うことに必死になる。

人種や宗教の確執が、人々の行動を制約し、枠を取り外そうともがく先にある運命は過酷です。その心情に引き込まれます。ですが、バッハマンはイッサがテロの資金源であると阻止しようとします。立ち位置で、人は見方も考えもその人の正義なのです。果てのない争いの不毛さに体が震えました。

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(No.5992)ロジャー・ホッブズ「消滅遊戯 ゴーストマン2」/ロバート・クレイス「約束」/橘 玲「マネーロンダリング」「ダブルマリッジ」

2017.10.23 (Mon)


(テイカカズラ:返り咲きのいとおしさ:市内)

台風は深夜3時頃強風と豪雨で目を覚まさせ、市内は大きな被害もなく通り過ぎてくれました。
強風はまだ吹き荒れています。明日には止むでしょうか。

今回は4作です。
ロジャー・ホッブズ「消滅遊戯 ゴーストマン2」
ロバート・クレイス「約束」
橘 玲「マネーロンダリング」「ダブルマリッジ」


「消滅遊戯 ゴーストマン2」アンジェラから秘かなメールが6年ぶりに私に届いた。本物の彼女なのか。犯罪のプロとしての心得を私に教えた師匠だったアンジェラがマカオで危機に晒されている。彼女を救い出すため、数冊のパスポート、いくつもの偽名、数台の携帯電話を持ち、マカオに向かう。待っていたのは香港を牛耳っている大組織だった。アンジェラは宝石とともに、とんでもないものを捌こうとしていた。

綿密なトラップや殺戮を冷静な文体で描いているのは、1作目と同様です。目の動きひとつの繊細さと、切れ味のいい太刀を使い分けみごとなエンディングまで、一気に読ませます。犯罪組織の深い谷を覗いてしまった怖さと、人間は見たいと思うものを選んで見るのであり、真実とはいかに遠い立ち位置にいるかを改めて思い知らされます。2作で亡くなったとは惜しい作家です。

「約束」ロス市警警察犬隊スコット巡査と相棒のシェパード・マギーは、逃亡中の殺人犯を捜索していた。マギーが発見した家の中には、容疑者らしい男が倒れており、さらに大量の爆発物が見つかった。同じ住宅街で私立探偵のコールは、失踪した会社の同僚を探す女性の依頼を受けて調査をしていた。幾重にも重なる偽りの下に眠る真実。

警察犬と巡査の強い信頼の物語と、コールと相棒・パイクの二つのストーリーがうまく絡み合っています。一気に読ませるのはさすがです。警察物のおもしろさを楽しめます。

「マネーロンダリング」香港在住の工藤秋生34歳。日本人を相手にオフショア関連のアドバイザーをやっている。かつて都市銀行、ニューヨークの投資銀行、ヘッジファンド運用会社を経て、金には困らないが暇つぶしでしていることだった。若林麗子と名乗るゴージャスな美人が現れ、オフショア会社、オフショア銀行、私書箱サービスを利用したスキームを提案。だが黒木が現れ、麗子は黒木が関係する50億円を日本から送金し、そのまま行方をくらましているという。秋生は自分がとんでもない深みにはまったことを知る。 日本と香港を行き来し全容を知った。50億円を巡り、人は人生を狂わせていく。

暮らしには困っていず、特にやりたいこともない秋生のキャラ設定が、全体に現実感の薄さを出しているのかも知れません。マネーロンダリングのやり方も、いまはもっと進化しているので、15年前の作品として読みました。人の本質を見抜く力は誰にでもあるわけではないのです。欲のない秋生には、必死な麗子に先を越されてしまうのです。しっかり調べて描いている点は評価できます。おもしろく読めますが、もうひとつ人間の深さがほしい印象です。

「ダブルマリッジ」大手商社のエリート社員、桂木憲一は、妻、大学生の娘マリと幸せな家庭を築いていた。が、パスポート更新のために、戸籍謄本を取り寄せると、妻の里美と並んで「マリア・ロペス」というフィリピン人女性の名が書かれていた。憲一は20年前マニラ赴任中に、マリアと結婚式を挙げながら一人で帰国したままだった。役所はマリアからフィリピンの婚姻証明書が送られてきたから記載したという。さらに数日後、自宅に一通の封書が届く。妻が確認すると新たな戸籍謄本で、「長男」として「ケン」という名が書かれていた。

仕事優先で暮らしてきた憲一は、妻から離婚を切り出されてしまいます。憲一は、遺産分割も考え弁護士に相談し、フィリピンにマリアを探しにいきます。行動的なマリは友人を介して日本でケンを探そうとします。潔い娘と対照的に、決断を先延ばしする憲一にいらいらして読みました。思いと金が交錯してラストに向かいますが、少し安易な終わり方だと思いました。

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17:05  |   |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

(No.5989)垣谷美雨「七十歳死亡法案、可決」/グレン・エリック・ハミルトン「眠る狼」/橘 玲「タックスへイヴン」/レベッカ・キャントレル「この世界の下に」/古川日出男「平家物語 犬王の巻」

2017.10.10 (Tue)

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(コスモス:青空に映えて美しい:公園)



読書の秋の影響でしょうか。
読み始めると止められなくなります。困った性格ですね。
今回は5作です。
垣谷美雨「七十歳死亡法案、可決」
グレン・エリック・ハミルトン「眠る狼」
橘 玲「タックスへイヴン」
レベッカ・キャントレル「この世界の下に」
古川日出男「平家物語 犬王の巻」


「七十歳死亡法案、可決」高齢者が国民の3割を超え、破綻寸前の日本政府は「70歳死亡法案」を強行採決。施行まで二年、東洋子は喜びを噛み締めていた。我侭放題の義母の介護に追われた15年間。自分勝手な夫、引きこもりの息子、無関心な娘。ようやく義母の介護から解放される喜びが、思わぬ方向に進む。早期退職し、夫は友人と世界一周旅行に行くと。

国民が自主的に年金返上、子どもたちへの寄附、医療費全額負担宣言、ボランティアなどの自然発生的なシステムができていくのがいいですね。仕掛人もいて、ほくそ笑んでいます。かつてのキャリアを忘れていた東洋子が、家を出て仕事を始めると、家族が変わっていきます。笑って読ませる早い展開と、法案のラストがありそうでおもしろいです。

「眠る狼」郷を離れ陸軍で海外勤務についていたバンに、長い間音沙汰の無かった祖父から手紙が届いた。ベテランのプロの泥棒である祖父の弱気な言葉に胸が騒いだ彼は、休暇をとって帰郷する。だが10年ぶりの家に着くと、頭に銃撃を受けた祖父が倒れていた。人事不省の祖父に問うことも出来ないバンは、手掛かりを求め旧知の仲である祖父の仕事仲間に協力を仰ぐ。どうやら祖父は最後の大仕事を行なっていたらしい。

現在と少年時代を交叉させた、硬派なの語り口がいいですね。引き込まれます。次第に明らかになる祖父の意図が、思いがけない展開をしていきます。アクション、謎解き、家族、仲間、盛りだくさんなおもしろさを、うまくまとめています。次の作品も読みたいです。

「タックスへイヴン」東南アジアでもっとも成功した金融マネージャー北川が、シンガポールのホテルで転落死した。自殺か他殺か。同時に名門スイス銀行の山之辺が失踪、1000億円が消えた。金融洗浄、ODA、原発輸出、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ。東南アジアから北の国まで関わっていた。名門銀行が絶対に知られたくない秘密、そしてすべてを操る「トカゲ」と呼ばれる男の暗躍。北川の高校の同級生・古波蔵と牧島と紫帆が再会し、真相を突き止めようと動き出す。

頭脳明晰で鍛えた格闘能力を備えた古波蔵は、少し類型的なキャラになっているのが惜しいです。必要な役割ではありますが。金融、政治がいかにお金に動き動かされ支配しているかを、改めて認識させられました。確かにいまの世界情勢が映し出されていて、おもしろいです。牧島と紫帆の恋愛感情はこそばゆく、牧島の仕事キャラを矮小化して惜しいです。

「この世界の下に」ソフトウェア開発で億万長者になったジョーは、前触れもなく広場恐怖症になった。外に出られなくなり、ニューヨークの地下グランド・セントラル駅の下にある屋敷で暮らす。介助犬エジソンとともに地下鉄の線路沿いに日課の散歩に出たジョーは、煉瓦の壁にハンマーを叩きつける男と遭遇する。崩れた壁の中には古い白骨が現れる。だが男はまだなにかを探し、殺害される。広場恐怖症のジョーは警察に容疑をかけられ、エジソンと一緒に張り巡らされた地下鉄道や抜け道を駆使してひたすら逃げる。

地上に出られないジョーを、よく地下だけで冒険させるものです。理性的思考とパニック思考との落差がユーモラスです。過去のウィルス殺人兵器の使い方もうまいです。個人的には殺し請負人のオザンがカッコいいキャラクタが好きです。映画のような楽しみを味わえる作品です。

「平家物語 犬王の巻」時は室町。京で世阿弥と人気を二分した天衣無縫の能楽師・犬王と、盲いた琵琶法師・友魚。2人の友情が生まれる。だが犬王は怨念により醜い姿で生まれ、面を付け体をおおって生きてきた。醜いものを包み隠し、兄たちの歩行術を盗み見して稽古をすると、素足になりたいきれいな足になった。友魚の語りは平家の新たな物語とともに犬王を語り、聴衆を歓喜させた。

久しぶりの古川氏の作品です。歴史物をこのように描き切るのかという、驚きがありました。実に簡潔にテンポよく、能楽のおもしろさが伝わってきます。時代の空気も味わえます。本編の「平家物語」も読んでみたいところですが、900ページ情報にためらいます。一気に読ませられるのはわかっている作家だけに、迷います。

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(No.5987)ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝」「暗殺のハムレット」/薬丸岳「死命」「誓約」

2017.09.29 (Fri)


(オレガノ・ケントビューティー:咲終わりの美:ベランダ)

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(ブルースター:まだ元気があります。そろそろ種子が開く頃:公園)

さわやかな青空がうれしい朝です。
耳の閉塞感は、耳鼻科で血行を良くする薬で軽くなりました。治療薬ではないので、どうなるでしょう。原因はストレスと言われては、改善するのは無理でしょう。
歌のレッスンも、ボイストレーニングもオペラのアリアの初歩曲が並びます。新曲の指示があり、譜読みと原語読みを先に進めて準備しなければと、つい必死になる困った性格です。

今回は4作です。
ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝」
「暗殺のハムレット」
薬丸岳「死命」
「誓約」

「英雄たちの朝」ファージング・セット13部作でした。第二次大戦でナチスと手を結ぶ道を選んだイギリス。和平へ導いた政治派閥「ファージング・セット」は、国家権力の中枢にあった。派閥の中心人物の邸宅でパーティーが催された翌朝、下院議員の変死体が発見される。捜査にのり出したスコットランドヤードのカーマイケル警部補は、ユダヤ人差別の壁に阻まれる。

世相が次第にファシズムに染まって行く漠然とした違和感。大きな権力によって人種差別、階級社会、同性愛蔑視など個人の尊厳と自由が奪われて行くじわじわとした焦燥感。けれど個人の立場での限界に絶望しそうになります。真実も法律もねじ曲げる強大な権力に屈する、カーマイケル警部補の秘かな決意が希望でした。

「暗殺のハムレット」ファージング・セットⅡ政府が強大な権限を得たことによって、国民生活は徐々に圧迫されつつあった。そんな折、ロンドン郊外の女優宅で爆発事件が発生する。この事件は、ひそかに進行する一大計画の一端であった。カーマイケル警部補の捜査は進むが・・。旧家から飛び出して舞台女優になったヴァイオラ。ヴァイオラが男女の配役を逆転させた芝居「ハムレット」の主役をオファーされ、舞台成功へと敬子を重ねる。厳重警備の中、総統が感激に来ると情報が入る。旧家の妹から絶対拒否できない、とんでもない難題を押し付けられる。

カーマイケル警部補のプライベートの葛藤も描かれ、人間味を感じさせます。だからこそ、仕事の立場を利用してのユダヤ人や罪のない人々の逃亡支援を続けているのでしょう。自由のないヴァイオラが羽ばたけるはずの舞台で、苦渋の決断は潔いです。犯人を逮捕しなければ、元の世界に戻れたのか。カーマイケル警部補の最後の思いは、3部作最終作へと続きます。

「死命」信一は若くしてデイトレードで成功しながら、自身を突き動かす女性への殺人衝動に悩む。信一は余命僅かと宣告され、欲望に忠実に生きることを決意する。それは連続殺人の始まりだった。元恋人の澄乃との皮肉な再会。殺人犯逮捕に執念を燃やす蒼井刑事にも同じ病が襲いかかり、なぜ自らの命を削ってまで殺人犯逮捕に執念を燃やすのか、新人の矢部は必死に先輩の背中を追いかける。

抑えられない殺人衝動と、地道な刑事の捜査と、取り巻く人間たちの生い立ちにまで言及しキャラを立ち上げて行きます。ある意味では恐いもの見たさで、最後まで読まされます。ラストの小さな刑事の嘘が、犯人にくさびを打ち込みました。

「誓約」落合と一緒にバーを経営する向井は、家庭にも恵まれ真っ当に暮らしていた。向井の元に、「あの男たちは刑務所から出ています」という一通の手紙が届く。送り主はもう亡くなっているはず。過去に整形し新戸籍を作った向井は、その費用を娘を殺された母親から借りていた。条件は、娘の殺人犯2人を殺害することだった。警察にも家族にも相談できない向井は、姿の見えない脅迫者に一人立ち向かう。

消したい過去をもつ男の焦りと恐怖が、周囲の人間不信に陥りそうになります。すべてを妻や警察に告白し、逃れたいとも考えますが間近で監視されているようでそれもできません。途中で犯人が想像できてしまいますが、ラストに希望を残す薬丸氏の作品はおもしろいのは確かです。一気読みさせます。ただこれで読み納めにしようと思います。子どもの劣悪な環境が、どれほどひどいのか。いまの社会の縮図が少しつらく感じます。

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(No.5985)ジョー・ウォルトン「バッキンガムの光芒」/キャリー・パテル「墓標都市」/薬丸岳「その鏡は嘘をつく」

2017.09.17 (Sun)


(マンデビラ:青空に上って行きたい:浜松の公園)

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(アゲラタム:白もきれい:浜松の公園)

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(黄花コスモス:オレンジが鮮やか過ぎて:浜松の公園)

旅行から戻り、ようやく落ち着きました。
今回は3作です。
ジョー・ウォルトン「バッキンガムの光芒」ファージング・セットⅢ
キャリー・パテル「墓標都市」
薬丸岳「その鏡は嘘をつく」

「バッキンガムの光芒」ファージング・セットⅢソ連が消滅し、大戦がナチスの勝利に終わった1960年、ファシスト政治が定着したイギリス。イギリス版ゲシュタポ・監視隊の隊長カーマイケルに育てられた養女エルヴィラは、社交界デビューと大学進学に思いを馳せる日々を過ごしていた。裏でカーマイクルは監視隊の地位を利用し、無実のユダヤ人たちを国外に逃亡させる非合法組織を束ねていた。しかしエルヴィラたちの人生は、ファシストのパレードを見物に行ったことで大きく変わってしまう。

古き社交界の会話が聞こえてきそうな描写と、カーマイクルの隠れた仕事との落差が、エルヴィラ逮捕で現実に繋ぎ合わされました。カーマイクルの表の仕事の立場とエルヴィラへの対処、後半のエルヴィラの果敢に立ち向かう姿がなかなかです。多少うまくいき過ぎ感はありますが、読ませてくれました。

「墓標都市」旧文明の崩壊から数百年。多くの人々は地上を厭い、巨大な地下都市国家に暮らしていた。その一つ、ヴィクトリア朝風の階級社会が栄えるリコレッタでは、旧文明の知識は重大なタブーである。そんな中「プロメテウス」なる極秘計画に関わる歴史学者が殺された。女性捜査官マローンの活動は、なぜか上層部から妨害を受ける。そして貴族社会の裏側に出入りする洗濯娘ジェーンも、謎の男アルノーと出会って事件に巻き込まれてゆく。

舞台設定が特別な機能をしていません。中世の階級社会の物語として読みました。古風な殺人事件捜査。社交界デビューの準備をするジェーンと友人。クーデターの混乱で頭の良さを発揮し、生き延びるジェーンができすぎていますがご愛嬌。査官マローンのキレのなさと、利己主義な行動にはがっかりします。

「その鏡は嘘をつく」鏡ばかりの部屋で発見されたエリート医師の遺体。自殺とされたその死を、検事・志藤は他殺と疑う。東池袋署の刑事・夏目は同日現場近くで起こった不可解な集団暴行事件を調べていた。医師になることを親に強制されていながら、浪人になり希望を失った幹夫はヤケになっていた。予備校女性講師峰岸だけには相談していた。

薬丸氏の作品は、妙に中毒性があります。読み出すと止まらず、やや都合の良過ぎる設定や展開も気にせず、物語に浸っていたくなります。真犯人の周囲の人間関係の複雑さと、残虐性を見せつつ、それでもラストにひと雫の希望を明かりを残すからでしょうか。

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(No.5982)ミネット・ウォルターズ「遮断地区」/薬丸岳「ハードラック」「神の子」「天使のナイフ」

2017.08.25 (Fri)


(ガウラ:咲き始めの形がかわいい:ベランダ)

連日の暑さと日照不足。おかしな夏です。残暑だからいいけれど、8月の梅雨のような気候が異常でした。

今回は4作です。
ミネット・ウォルターズ「遮断地区」
薬丸岳「ハードラック」「神の子 上・下」「天使のナイフ」

「遮断地区」独居老人、ドラックに浸る不良少年たちの住む低所得者層団地に越してきた老人と息子は、小児性愛者だと疑われていた。2人を排除しようとする小さな抗議デモは、10歳の少女が失踪したのをきっかけに暴動へ発展する。団地は封鎖され、石と火焔瓶で武装した2,000人の群衆が襲いかかる。警察も入れない。医師のソフィーは、暴徒に襲撃された親子に逆に監禁され暴行されそうになる。出所したばかりのジミーは恋人を救おうと行動を起こす。

しばらく読んでいなかった作家です。こういう作品も書くのですね。一気に読ませる展開と、登場人物の多さと細部描写のくどさが入り交じり、主題がわかりづらいのが惜しいです。社会的主張や心の精神的闇も深くはありません。サスペンスとしてはいいのではないでしょうか。

「天使のナイフ」桧山は、生後5ヵ月の娘の目の前で妻を殺された。だが、犯人3人は13歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。4年後、犯人の1人が殺され、喫茶店を営む桧山は疑惑の人となる。捜査陣も周囲も信じてはくれず、自ら疑惑を晴らそうと動き出す。

個人の立場でどこまで事件を追いかけられるのか、少し無理もありますが読ませられました。少年犯罪を視点をしっかりと定めた描き方が、うまいです。ハマりそうです。

「ハードラック」25歳にもなって日雇い仕事すら失い「大きなことをするため」闇の掲示板で同類を募った。4人の応募者の一人が主導権を握り、仁たちは軽井沢で強盗に入る。だが思いもよらず気を失い、放火殺人の汚名を着せられてしまう。なぜおれを嵌めたのか。信じられるのは誰か。手探りで真犯人を探す仁、闇世界の住人たち、追う刑事。物語は二転三転していく。

登場人物各々の背景が描かれ、最後まで誰をも信じられない葛藤が続きます。お人好しの仁が招いてしまう結果なのですが。真面目に生きる術を失い、犯罪に手を出してしまう敷居の低さ、誘惑の大きさに言葉を失います。格差を這い上がることができない、いまの社会の怖さを改めて認識させられました。何作か読んでみたいです。

「神の子 上・下」殺人罪で少年院入所。知能検査でIQ161以上を持つ町田博史は、戸籍を持たない劣悪な境遇の中、感情を見せず自分の頭脳だけで生きてきた。そして町田たち数人の脱走事件は失敗し、内藤法務教官は外からそそのかした人物がいたことを知る。その後、町田はずば抜けた記憶能力で本を読み大学受験の資格を取り、退所後大学に入りアルバイトをしながら生きていく。一方、闇社会で絶大な権力を持つ男・室井は町田を執拗に追い求めていた。

いまならサヴァン症候群として、きちんとした対応も取れるでしょう。ミノルとのみ仲良く遊んだ喜びと罪悪感を、記憶の深いところに沈めています。町工場でバイトの空き時間に義手を造ったり、会社を興す手伝いをしながらも、一歩距離を置いていきます。感情がわからない町田の、奇跡的な生き方にぐいぐい引きつけられて読みました。多少の過不足を上回る筆致がみごとです。

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